てん ―The pure story―
人の気配に奈央はぱっと目を開いた。
「何が、嘘なんだよ。フトモモ丸見えだぜ」
原田の顔が目の前にあり、汗があごを伝って奈央の頬にぼたぼたと落ちていた。
「ひっ・・」
「なんだよ、挑発のポーズとってたのはお前だぜ。そろそろロストバージンしてもいいんじゃねぇか?青臭いガキにやられる前に俺が大人の男を教えてやるぜ。どっちかっていうと俺も年増よりお前とのほうがいいしな」
「や、やめて。大声出すわ」
「聞こえやしねーよ!このお屋敷はダダッぴれーからな。おとなしくしろよ!パチンコすった上にクソ蒸し暑くてイライラしてんだよっ!」
そのとき玄関で声がした。
――母だ!――
奈央は原田が声にひるんだスキに、ソファからすべり下りてその場から逃れた。
「正彦っ、九週目に入ったとこですって!婚姻届も貰ってきたわ。あぁ、奈央。あなたお姉さんになるのよっ」
「すごいじゃないかゆりこ。そうか俺は親父になるのか」
原田は奈央に顔を近づけ、
「とりあえずはおあずけだな」
と小声で言ってニヤッと笑うと、大げさに手を広げて母を迎えた。