てん ―The pure story―
「あ、いつもご苦労様です」
振り返ったとたん、そう声をかけられた。
主であろう男性が肩を落として立っていた。
「い、いいえ。毎度あり・・・」
――これが旦那かぁ、あんな奥さんが待ってるんじゃ帰ってきたくもないだろうな――
奈央は同情した。
男がドアを開けると、中から
「あら、いやだ、早いんじゃないの」
と、帰宅を迷惑がる女と主人にまで吠える犬の声が聞こえてきた。