てん ―The pure story―
セダンのリアシートで、泣き疲れたタカシが奈央の膝に頭をのせて眠っていた。
奈央はタカシの頭を撫でたとき髪の間の凄まじい傷跡に息を呑んだ。
カオリはせつなそうに言った。
「昏睡状態だってことまでしか知らなかったけど、脳に障害が残ったのね、気の毒に。でも何故奈央と出会ったのかしらね、不思議だわ」
「わたしがあの日、ヤスシのバースデーパーティーに出ていたらすぐわかったのに」
そしたら、事故は起きなかったかもしれないし、やすしが死んだりイダテンがこんなになったりはしなかったろうと三人は思った。
でも、誰も口には出さなかった。すべては終わってしまったことなのだ。