てん ―The pure story―
「おもたせですが・・・」
男の持ってきた洋菓子と、お茶をだして奈央が言った。
タカシはすばると一緒に〔てがる〕に行かせていた。
「ご迷惑をおかけしてます。お話はお電話して下さった東郷さんという方から大体伺っております」
井田は深々と頭を下げた。
「お話を伺ってから、てんちゃ・・・息子さんの職場にご案内します」
奈央は緊張した面持ちで言った。
「たかしは働いているんですか?」
井田は驚いた顔をした。
「もちろんです。私の知り合いのお店で毎日タコ焼きを焼いてくれてます。夜はバーテンダーもやってるんですよ。実に楽しそうに」
「そうですか、タコ焼きとバーテン。どっちもたかしが元気なときにやっていたアルバイトです」
井田は嬉しそうに言った。
「息子さんは、今も元気です」
奈央はたしなめるように井田に言った。
「あなたはいい方だ。ご親切は東郷さんから伺いましたが、こうしてお会いしてみたら尚更よくわかりました」
井田はしみじみと言った。
奈央は、いただきますと言ってゆっくりとお茶をすする目の前の穏やかな男性に、少しずつ好感を持ち始めた。