てん ―The pure story―
タカシの父井田一馬は、以前は奈央も知っているほどの大手商社のエリートだった。
家族を省みず仕事に没頭したおかげで、出世は早く生活水準はトップクラスだった。
だが見返りとして、常に、妻子に寂しい思いをさせ続けていた。
もともと心臓が弱かった妻は、夫に心配をかけまいと体調を崩しても我慢していた。
タカシが5歳のとき入院中の彼女は息子だけに見送られて亡くなった。
一馬は海外出張中だった。
一馬はいきなり、息子とのコミュニケーションを必要とされた。
しかし、頭がよく感受性の豊かなタカシは、母が病死した原因は父にあると、次第に父親を敬遠していった。