てん ―The pure story―
一馬はくに子の知り合いにはいないタイプだった。
17の年に家を飛び出してから、水商売ばかりを転々としてきたくに子は40歳を過ぎた今も男性と深く交際をしたことがなかった。
くに子は下品で教養のない、自分と同類の男たちばかりを目にしてきた。
そんなくに子に、ハンサムで品のある一馬はことのほか眩しく映った。
くに子は一馬が独身だということを聞き出した瞬間から、どうやったら妻の座に収まることができるかということだけを考えていた。
ある晩薬を入れて酔い潰した一馬を奥の小部屋に引きずっていった。
相撲取りのような体格をしたくに子に、看病疲れでガリガリに痩せた一馬を運ぶことは容易だった。
くに子は一馬の衣服をすっかり剥ぎ取ると、敷きっ放しの布団に転がした。
そして、自分も服を脱ぎ捨てて隣に収まった。
真面目な一馬は責任感も人一倍強かった。
そのままくに子は、生活していた三畳の部屋つきの一間飲み屋を閉めてしまうと、一馬を煽り立てて井田家に向かった。
一馬はタカシの治療費のため、以前住んでいた邸宅を手放していたが、それでも小さいながら建売を購入していた。
しかしそこは、くに子にすれば御殿のようだった。
狂喜して玄関に飛び込むくに子の目に、泣きはらした目のタカシが飛び込んできた。
「おばちゃんだあれ?お父さんはどこ?ぼくおもらししちゃった」