てん ―The pure story―




奈央は一馬を〔てがる〕に連れていった。



タカシは楽しそうにタコ焼きを作っていた。それを見ていたすばるが「ママ」と言って奈央に駆け寄ってきた。



すばるに続いてタカシが飛び出してきた。



「奈央おばちゃん!」



そう叫んだ後で、タカシの顔がひきつった。



「やだーっ!おとうさんきらい!ぼくをあのひとのとこに連れていかないでっ!」



タカシは泣き叫んだ。すばるがつられて叫んだ。言葉ではなく以前のようなぎーぎーという声に戻っていた。



一馬はタカシを抱きしめた。が、タカシは暴れて父親をふり飛ばした。



店からおじさんとおばちゃんも飛び出してきた。



「てんちゃんっ!お父さんに何するのっ!!」



奈央がタカシを怒鳴った。



タカシはびくっとして暴れるのをやめたが、やがてぺたんと腰を落としあーんあーんと泣き始めた。



奈央はタカシを抱き寄せると、ゆっくり頭をなでながら言った。



「いい子ね、大丈夫。てんちゃんのことはどこへもやらない。おばちゃんが守ってあげる。ずっとうちにいていいのよ」


「ほんとう?ゆびきりする?」


タカシがおずおずと小指を差し出した。


「うん、する。なんかいでもする」


奈央は小指をタカシの指にからめてそう言った。




「井田さん、決心しました。タカシ君はわたしがずっと面倒をみます」


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