てん ―The pure story―
かおりが促し、二人はレストランを出た。
「ねえ!あんた名前なんていうの?」
かおりが車の騒音に負けない声で叫んだ。
男は黙って仕事を続けている。
「聞こえないのかなぁ。うるさいもんねここ」
かおりは奈央を振り返って言った。
「ねえってば、年いくつ?どこに住んでんの?」
かおりは、さっきよりもっと大声で怒鳴った。だが男の反応は同じだった。
「むむっ、無視してんのかも。こうなったら接近遭遇しかないな」
かおりは立ち入り禁止を示す黄色いテープをまたぎかけた。が、その足がまたぐのを躊躇した。
「奈央やばい、補導員だ」
「えっ、どこ?誰もいないよ」
「いいから、そっと背を向けてゆっくり歩いて。そして合図したら左右に分かれて全力疾走だよ。マンションで落ち合おう」
かおりが歩き出した。