てん ―The pure story―
奈央はそっと後ろを見た。太った男がのらりくらりと歩いてくるだけだ。
――ただの酔っ払いじゃないかなぁ――
しかし、男は確実に二人との距離を縮めてきた。
「今だ、走れっ!」
かおりが叫んで、奈央は弾かれたように彼女とは逆方向に走った。
男が
「待てっ!逃げてもすぐに見つけるぞ」
と怒鳴りながら迫ってきた。
しかし肥満体はすぐに息切れをおこし、立ち止まって両膝に手を置き、顔だけこちらに向けてゼーゼーあえいでいるのが見えた。