てん ―The pure story―
「すごいね。何でわかるの?」
マンションに一足遅くたどり着いた奈央が、尊敬のまなざしでかおりに聞いた。
「長年のカンよ」
かおりはミネラルウォーターのボトルを奈央に放り投げると、すまして言った。
「本当にこいつはカンがいいんだ。俺たち集会やってる時も、やばい、そろそろお開きにしたほうがいいよ、なんてカオリが叫んだとたん、見張りが原チャリ飛ばして戻ってくるなんてことしょっちゅうだったもんな」
かおりの恋人で、族のリーダーのケンがそう言った。
「俺にレイダースのイダテンのような腕がありゃあ、メンバーももうちっと安心できるんだろうけどなぁ」
ケンが続けて言うと、かおりが口を挟んだ。
「確かにあいつは物凄い腕の持ち主みたいね。メットも被んないでレッドゾーンぶっちぎるって話だし、わざとパトカー挑発して何台も潰したって噂もあるわ。それに上納金目当てのスジモノにも手を出させないって!けれど、規律を乱したメンバーには容赦なく制裁加えるっていうし、氷より冷たい心の持ち主だって」
「そういう根も葉もない噂は、チキンレースでイダテンに負けた連中が腹いせに流すんだよ。俺はそんな馬鹿げた噂は信じない。二輪は危ないから、メンバーが多ければ多いほどきちっとルールを遂行しないと命取りになる。だから厳しくしてるんだよ、きっと。・・もし悪評が事実なら、何十人もついて行くはずないしな」
ケンはそう言って、興奮していたかおりの顔を両手で優しくはさんだ。