てん ―The pure story―
「妹ですって?馬鹿いっちゃいけませんよ。この子には以前から目をつけていたんだ。毎晩このあたりをうろうろしてたからね」
「だから、俺を待っていたんですよ。俺たち兄妹二人きりでね。こいつは誰もいない部屋に一人で帰るのを嫌がるんだ」
「しかしね、あんた。・・・じゃあ身分証明のため学生証を」
肥満は再び奈央に向き直って言った。
「うるせえな、おれが妹だって言ってんだろ!それともお前、俺のことも未成年に見えるのか!」
男はヘルメットを地面にたたきつけた。
「おい、リング以外で拳を使うと犯罪だぞ」
「すいませんねぇ、こいつ減量続きでここんとこイライラしてっから」
肥満の周りを、工事現場の連中が取り囲んで凄んだ。
一瞬張り詰めた空気が、肥満補導員の弱腰な声でゆるんだ。
「と、とにかくあまり遅くまでは困りますよ。女の子なんだから・・・」
肥満は早々に立ち去った。