リングは彼女に
「最近、仕事は忙しいの?」
「いや、別に忙しくは無いよ。いつもいつもキーボードを叩いているだけさ」手でキーボードを叩く仕草を見せた。
「そう……私は忙しいのよね、この間新人の子がやめちゃってさ、人手が足りないのよ」
「そうか、せっかく就職したのに勿体ないな、その子」俺にも仕事をしていなかった無職の時期があったので、仕事を辞めたその子に少し同情した。
「ええ、上司にキツいのがいるからね。結構新人に当たるのよ。『あれやったの? これは? まだ終わってないじゃない!』こんな感じでね」
「大変だな、由美のとこも」
由美は小さく頷き、少ししてから言った。
「ええ、そうなの。大変で大変で……ごめんなさい。ちょっとお手洗いに行ってくるね」
「ああ――分かった」
音を立てないように静かに立ち上がった彼女は、近くにいた給仕に化粧室がどこにあるのかを聞き、そのまま行ってしまった。
これはチャンスとばかりに、俺は再びプロポーズの言葉を考えはじめた。