リングは彼女に
「なんでもありません。ただ、私生活の問題で……」
「そうか、私生活の問題か。私生活といえば俺もかみさんにどやされてばっかりで、毎日家に帰るのが辛いよ。酒飲んでべろべろに酔っ払った時なんか特にな……結婚前は威厳のある夫になろうと思ってても、男ってのはやっぱり尻に敷かれるもんだ」がはは、と下品な笑い声を上げる。
「大塚さんは結婚して、良かったと思いますか?」
唐突に変なことを口走ってしまった。言ってから、しまったと思ったが、大塚さんは気にも止めない様子で答えてくれた。
「そりゃな、結婚してしまったら責任も大きくなるし、遊び歩くことも出来なくなる。子どもを生んでからはしっかりと育ててやらなきゃならないし、独身の頃よりは疲れることも多い。だけどな、やっぱり結婚はいいものだ。今俺は幸せだ。子どもがかわいくて仕方がない。こればっかりは親にならないとわからないだろうけど、俺と最愛の人の間に生れた命がすくすくと育っていく姿を見ると、結婚して良かったと思うよ。結婚しなきゃ、俺はこの子に会えなかったんだな、と思うとさ。がんばって働かなきゃって気にもなるし」
そこまで言うと、ふうと一息ついた。