リングは彼女に
「君たち、珍しく早いですね」
緑縁眼鏡の男が立っている。長谷川だった。
「なんだ、長谷川か。びっくりさせるなよ」
田渕がほっと胸を撫で下ろした、吉田さんが来たんじゃないかと内心ヒヤッとしたに違いない。
「なんだとは、失礼ですね。僕はいつもこの時間に来ていますよ」
そう言いながら長谷川は自分の席に着いた。
カバンから小さな本を取り出し、パラパラとページをめくっている。一瞬手を止めて、俺たちの方を向いた。
「ところで、どうしたんですか? こんな早い時間に来て……なんか怪しいですね……」
「いや、特に何も……」
田渕が強張った表情で答える。
俺はまずいと思って、話題を変える事にした。