リングは彼女に


「いや、なんでもない、別にいいんだ。急に、無性に、なんとなーく聞きたくなってな……」田渕が慌てて取り繕って答えた。


 でも本当はそんな事、聞きたくもなかったのだが。


「ふうん。そうですか。まあ、別にいいんですけどね。別に話したって減るものじゃないし」

 長谷川はその時にはもう俺たち二人が何をしていたのかなんて、興味を失ってしまったようだ。そして口を開く。

「君たちも野球ばかりしていないで文庫本でも読みなさい。面白いですよ」長谷川は本の文字の上に目を這わせている。


「余計なお世話だ」


 田渕がそう言い放ったが、長谷川は既に聞いていないみたいだ、本の世界に没頭している。



 それを見て田渕と俺は、互いの顔を見つめあった。
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