リングは彼女に


 三三七拍子が終わり。RECボタンを再び押して録画状態を解除した。途端、田渕はがくっと膝をつき、そのまま仰向けに倒れた。


「成瀬……俺、マジで疲れた」その表情は達成感で満たされていた。ゴールまで走り抜いたマラソンランナーのようだ。


「ああ、お前はよくやったよ。最高だ。きっと、その想いも伝わるはずだ」田渕の腕を掴んで抱き起こした。きっと精神的に疲れてしまったのだろう。


 薄暗くなってきた空を眺めながら田渕が呟く。「あとは、これを渡してしまえばいいんだ。明日の朝早起きして、彼女の机の中に入れておこう。直接渡すのは、ちょっと気が引ける」




 確かに、それは無理だろうと、俺も思った。
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