リングは彼女に


 周りの食事をしていた客達が手を止めて、こちらを見ている。


 きっと彼らに俺は、間抜けな面を晒していただろう。同情するような顔をしている人もいた。


 逆にこちらから彼らを見ると、皆例外なく、慌てて目を逸らした。



 それにしても、こんな事になるなんて、思ってもいなかった。プロポーズしようと思った日に振られるなんて。


「また、振られちまったのか……」

 そう呟き、ガックリと肩を落としている俺の元に、給仕が来た。

 大きな皿の上に不恰好に調理された肉が乗っている。滴り落ちる茶色いソースの焦げたような匂いが、鼻につく。


「たいへんお待たせいたしました。こちらメインディッシュのカーン風トリップでございます」彼は無神経なのか、それとも気が付いていないのか、テーブルの上に皿を置こうとした。



 いらん! と言いたかったが、今は、そんな元気がない。


「すみません、もう結構ですので……」そう言うだけで精一杯だった。給仕は目を点にして、ぽかんとしていた。


 それからすぐに店を後にした。
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