リングは彼女に


「なに?」


 丁度そこまで話した時、鰻丼が到着した。大塚さんは箸を割って丼に手を付ける。


「それで、なんで別れたんだ?」

「それが、刺激の無いつまらない男だと言われまして……」


 一瞬間が空き、大塚さんの箸が止まった。よく見ると、肩がわなわなと震えている。そして鰻を口に含んだまま、声を立てて笑い出した。


「くっはははは。お前、それは別れて正解だよ! そんな、女につまらないなんて言われちゃお前、あ、鰻が冷めちまう」再び彼の箸が軽快に動き始めた。


「な、なにがそんなに面白いんです? 俺、未だに何故彼女に振られたのか良く分かりません……何故なんでしょうか?」


 丼と口に箸を行き来させながら、彼は答えた。


「そりゃあ簡単だよ」


 丼から箸を離し、それを俺の方に向けた。


「それはな、つまらないとか、飽きたとかじゃない。他に理由がある」
< 156 / 228 >

この作品をシェア

pagetop