リングは彼女に


「他に理由?」


「君、何か思い当たる節はないか? 彼女と、デートしていた時でもいい。思い出してみな」


「ええ、と……」


 おぼろげに消えつつある思い出を、心の中から手繰り寄せ、記憶として甦らせる。何かあっただろうか……


「そういえば……」

 デートをしている時、妙に熱心にメールを打っていた。よく電話がかからない時もあった。まさか……


「多分、他に男が出来たんじゃないかな」

 鰻丼を平らげ、大塚さんはそう言った。

「まさか……」

 信じたくはないが、そう考えてみると思い当たる点が多々ある。由美に男が……?


「きっと、そうだ。傷口に塩を塗る様で、こんな事はあまり言いたくはないが、そんなあやふやな理由で別れを切り出してくる女はな……大体他に男が出来たか、あるいは新しい恋を見付けたか、そのどっちかだろう。体験者が言うんだから間違いない」

 大塚さんは静かに笑った。


「というと、まさか大塚さんも……」
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