リングは彼女に
「ああ、もうかなり前の話になるが、高校時代に付き合っていた彼女がそんな理由だった気がする。かなりの美人だったから手放したくはなかったが……次の日にそいつは別の男とイチャついてた。それを見たときには、もうどうでも良くなったよ」
「そうなんですか……僕の彼女も、もしかしたら、そうなのかもしれません」
「まあ、ひとつの可能性として、それもあると言う事だ。だけど、深く考える必要は無いよ。もう別れてしまったんだから。くよくよ悩まずに、男ならポジティブに、前向きに生きるのが一番だ。そして」大塚さんは一拍置いて言った。
「もっと好きになれる人を見つけ出すことだ。この俺の様にな」
大塚さんは話終わった後、テーブルの上のコップに入った水をガブリと飲み干した。
「そうですね。もうちょっと前向きにいきます。このままじゃ前に進めなくなりそうですし」
「うん。その方がいい。それより」
「はい?」
「その鰻丼、もう冷めてるんじゃないか?」
俺はその時初めて、自分の鰻丼が手付かずだった事に気が付いた。