リングは彼女に
第2章
冬の夜道
時計を見ると、時刻は午後九時を少し回ったところだった。今日は、他にはなんの用事も無い。
だが、なにか無性に抑えきれないものが胸の中にある。
ムカムカするのとは違い、なんともいえない味の悪いドロドロとしたヘドロのようなものが詰まっているみたいだった。
このまま帰る気にはとてもなれない。
時間もまだ早い、ひとまず街を歩くことにした。
十一月も終わりに近づき、街はもう雪で真っ白に染められている。空も、空気が澄んでいるせいか、いつもより星が綺麗に見える気がする。
こうやって、空を見上げていると、今の心持ちのせいか、ふと思う。どこか遠くに行きたい。誰もいないところへ、行ってしまいたい。
だが、そんな事は出来ない。俺には金もなければ、時間もない。明日も仕事がある。自分で自由になる時間というのは、わずかしかない。
そんな社会人としての責任というのか、なにか大きな、見えない鎖に囚われている自分に気が付くと、ため息ばかり出るのだ。