リングは彼女に

「最初はCD屋でそれから自然公園で、今度はレストラン? 何でそんなにあっち行ったりこっち行ったり……こっちの身にもなってくれよ」意識せずとも語尾が荒々しくなる。


「そんな事言われても……お腹空いたんだもん……仕方が無いでしょ?」理那は悪びれずにそう答えた。



 俺はそれを聞いて心底あきれ果てた。こんなに振り回されるなんて思ってもみなかった。



「いい加減、もう帰らないか? 夜も更けてきた事だし……俺、明日も仕事なんだよ……疲れてるんだ。これ以上振り回さないで欲しいんだけど」そう言うと、理那はすぐに反論した。


「たまには外で御飯が食べたいの。だって、今日はクリスマス・イブだよ? 外で食べるのが常識なんでしょ? 和人くんもそうやって言ってたじゃない」


「そう思っているなら最初から食事をしたいって言えばいいじゃないですか。突然言われても……」


「お願い、これで最後だから。セントラルタワー六階の『Wish』っていうレストランにいるから……来てね」


「ちょっと、待」携帯は切れた。


 既に怒りよりも、困惑が胸の中にある。理那は人をこんなに振り回して悪いと思わないのだろうか? しかし、仕方が無い。彼女はもとからこういう人なのだと自分に言い聞かせる。




 俺はセントラルタワーに向かって歩き始めた。
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