リングは彼女に


「理那。やっぱりダメだ」俺は再び言った。


「そう、もういいよ。じゃあ私一人で行く。和人くんは帰っちゃっていいよ……」


 理那は諦めたように言った。電話を切る気配を感じたので、俺は慌てて口を挟んだ。


「ちょっと待って。本当に行くのかい? 俺はもう帰ろうと思うんだ。もう一緒に帰ろう。屋上に行くのは今度にしたらいいじゃないか」


「ダメ。今日じゃないとダメなの。和人くんが行かなくても、私は行くからね」


「そうか分かった。もういいよ。俺はもう帰る。家で待ってるから」


「そう、じゃあね」そこまで言うと、理那の方が通話を切った。


 電話が切れてから舌を鳴らした。くそ。突然屋上に行きたいなんてどうしたんだ。でも、もう俺は付き合っていられない。


 万が一、無理をして屋上まで上ったとしても、理那がいるという保証はないからだ。今日は三回も呼び出された場所まで来たのに、理那は三回ともいなかった。屋上まで行っていなかったら、俺はどうしたらよいのだろうか。



 あらゆる事を考えても、やはりタワーの屋上にまで行くべきではない、一般人には明らかに無謀なことだ。
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