リングは彼女に


 非常階段はとても狭苦しい空間で、全てコンクリートで作られた素っ気無いものであった。


 この建物が、普段表に見せている明るくて綺麗な表情とは違い、かなり陰気な表情を見せる。顔を上げると『T-6』と壁に白い文字で表記されている。タワーの六階という事を表しているのだろう。


 ここからが大変だ。俺はこれからこのタワーを上る。言うなれば持久走だ。地上六十階以上の建物。階段のみを使って最上階にまで行かなければならない、相当な体力がいるだろう。


 ここでこそ、元野球部の意地の見せ所だ。高校時代の部活動では、様々なトレーニングをしたが、夏に合宿先で行った階段上がり走を思い出す。


 あれはかなりの根性がついた。何故ならその頃は、二時間以上も上がったり下がったりの繰り返しだったからだ。それに比べればこれくらい……きっと楽勝だ。



 俺は深く酸素を吸い込み、昔覚えた呼吸法を行いながら、思い切り階段を駆け上り始めた。
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