リングは彼女に
鼻から空気が漏れる。だが口を開いてはいけない。汗が流れる、しかし拭く暇などない。
薄暗い空間の中、階段を一段飛ばしで駆け上る。
膝を上げる度にスーツが破れそうになる。壁に記された階層の数字はひとつずつ、ゆっくりと増加する。時間が経てば経つほど、数字を見るのが億劫になる。あまりにじれったい。
階段の途中の所で、頭を上げて、階数を確認した。『T-33』やっと半分程のところまで来た。それにしても、胸が苦しく、足が痛い。わき腹が締め付けられるような感覚を覚え、今にも立ち止まって、座り込んでしまいそうだ。
最近は走ることを忘れていた。体が鈍っているくせに無理矢理走ったからだろう、気持ち悪くなってきた。
呼吸の中に時々嗚咽が混じる。