リングは彼女に
俺は今年で二十八歳になる。
そろそろ結婚してもよい年齢だと、自分でも考えていた。あと二年で三十路だと思うと、気が焦る。
このような年齢になると、正直言って独り身は辛いのだ。家庭というものへの、うまく言葉に言い表せない憧れが、少しずつ大きくなっていく。
だからこそ、今の彼女で独身生活を終わりにしようと考えていた。
実家(といっても隣町だが)の両親も心配しているし、そろそろ安心させてあげたいという気持ちもあった。
昔からの友人が次々と結婚していくなか、取り残された自分は、弁当の残り物のおかずのようだ。誰も手を付けない。
いつも母と電話をすると、話題に上るのは結婚の話だ。意図的に向こうが話を切り出してくるのだが。
「和人、あんた彼女はいるのかい?」
「ああ、いるよ、いるいる」
「そうかい、そりゃあ良かった。その子と結婚するのかい? あんたもいい歳なんだから、そろそろねぇ……」受話器越しにため息が漏れる。
「ああ、うん。大丈夫だよ。ちゃんと考えているから。母さんは心配しないで」
「そうは言ったって、晴菜は結婚したのに、兄貴のあんたはいつまで経っても一人。やっぱり心配だよ。お父さんだって、口に出して言わないだけで、心配しているのよ」
「大丈夫だよ。ちゃんと結婚は考えているから。決まったらすぐに報告するよ」
「そうかい? それならいいんだけどね」
「うん、大丈夫。大丈夫だから」
いつもこんな調子だ。
今までは適当な言葉を並べて取り繕ってきたのだが、もう、そうはいかない。
母の心配も、今頃になって痛いほど分かる。だからこそ、電話が終わる度に、しっかりしなければいけないと思う。