リングは彼女に

空に消えたリング



 スーツの胸ポケットから、指輪を取り出した。


 真新しいシルバーリングには、未だ曇り一つ無い。この指輪を見るのは、ずいぶん久しぶりな気がする。


「理那、よく聞いてくれ……」


 俺は指輪から目を離して、再び理那を見た。


「俺には、結婚したいほど好きな女性がいた。ついこの間まで、その人のためなら何でも出来た。だけど、その人にプロポーズをしようとした日に振られてしまったんだ。彼女にあげるはずだったこの指輪は、誰に貰われるわけでもなく、こうして俺の手の中にある……」


 指輪を握り締める。その手にはどうしても力がこもってしまう。



 理那は、真剣な表情で、指輪を握り締めた右手を見つめている。
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