リングは彼女に
見知らぬ街
ふと気がつく。どうやら、今まで来たことの無いところまで来てしまった様だ。
そこは、俺が嫌いな場所。いわゆる、ピンク街というところだ。
「お兄さん、お兄さん」看板を手に持ち、メッシュキャップを被った、変に声の高い男が話しかけてきた。
「どうだい、お兄さん。三万円ポッキリでいい子紹介するよ。すぐそこのお店なんだけどね」男は後ろの方へと指を指した。
「いや、金がないんだ。悪いけど、今日はやめとくよ」最初から行くつもりなど無いが、やんわりと断ろうと思った。
「いやいや、お兄さん、うまいねぇ。じゃあ、二万円でどうだ! 絶対に損はさせないから」男はニコニコとしながら、ピースサインを俺の顔に押し付ける。いい加減いらいらしてきた。
「いい、ごめん。また今度行くよ」
俺はこういう金で快楽を売る奴等が嫌いだった。それに、そういうことに金をつぎ込む奴らも嫌いなのだ。
俺自身は今までに一度もそんな事に金を使ったことは無い。
常に、金の無駄だと言い聞かせてきた。同僚に誘われたときも必ず断り、その度に心の中で、そいつらを軽蔑していた。