リングは彼女に
何故だ? なんでこんなところに?
見れば見るほど、戦慄がはしる。
怒りとも、悲しみとも違う感情が、胸中から湧き出る。気が付けば、ぶるぶると全身が震えていた。
おかしな素振りを見せたためだろう、理那に、「どうしたの?」と問いかけられた。
俺は答える必要があるのかと迷い、一瞬躊躇してから口を開いた。
「実は……あそこの二人組……」
俺は向かいの信号の下で仲良さそうに手を繋いでいる男女を指差した。
指先が震えているのが自分でも分かる。
「あのカップルの女の方……あの女は、俺の元彼女……」
俺は一端言葉を切った。
何故なら、そこから先を理那に説明するのが嫌になったからだ。
自分の中でも信じられない気持ちが未だにある。正直な話、受け止めたくない。
信じられない現実が、目の前で具現化している。