リングは彼女に

「ご、ごめん。ちょっと驚かそうと思って……」俺は無礼を詫びるサラリーマンのようにペコペコと頭を下げた。


「もう、私はびっくりするの嫌いなんだから、こういうのはやめてよね」


 理那はサンタクロースの人形を俺から受け取り、テーブルに置いた。


「これは結構かわいい。なんか間抜けな顔してる所がいいね」


「そ、そうだろ? それが気に入ったからこれを買ったんだよ。中身のそれね」


 俺はなんとか誤魔化そうと思った。そんな俺を見つめながら、理那は言った。


「ところで、その鼻眼鏡にはなんの意味があるの?」


 その言葉を聞いて、俺はげんなりとした。



 その一連のやり取りを見聞きしていたのか、バーテンダーはニヤリと笑った。そう言えば彼が笑ったのを見るのは初めてだった。



「バーテンダーさん。俺にもグラッド・アイ下さい」そう頼むと、バーテンダーは鼻眼鏡を掛けたままの俺の顔をじっと見つめた。



「この一杯はサービスさせてください。私を笑わせてくれたお礼です」


 続けてバーテンダーは、こう言った。

「それから……、それは去年私が娘にしてやったプレゼントなんです、その鼻眼鏡もね」


 彼は笑いをかみ殺し、少し恥ずかしげに頭を掻いた。


 俺は驚いたが、これもめぐり合わせなんだと、その時は思った。



 サンタクロースがくれた、聖なる夜の奇跡?



 奇跡というのには、あまりに馬鹿馬鹿しすぎるけど――だけど、これが運命ってやつなのかもしれない。


 運命も必然も、ビリヤードみたいなものだ、どこでどう打つかるか分からない。


「理那……乾杯しよう」




 二人でグラスを持ち上げる。




『メリークリスマス!』
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