リングは彼女に
「なんなんだろうね」
由美は多少興味を持った様子で、散らばっている紙の中から、余り濡れていないものを探して、拾い上げる。
「ええと、『今年の聖夜は、何を貰いましたか?』ですって。クリスマスをテーマにした習字なのかな? どこかの商業施設の宣伝戦略かも……」
由美は他にも解読出来るものが無いか探してみた。
長谷川が休んでいるベンチから、左に3つ目のベンチの上を見た時、ほとんど濡れていない紙を見つけた。
由美はそれに手を伸ばして、拾い上げようとしたが、手を止めた。紙の上に、何かが乗っている事に気が付いたためだ。
「これって……」
由美が見つけたものは、銀色に光り輝く指輪だった。
しかし、彼女には、何故こんなところに指輪が落ちているのか、理解出来ない。
「なんで指輪が?」
指輪を摘み取った由美は、それを指に填めたくなる衝動に駆られた。
その衝動に従い、由美は指輪を指に通す。
不思議とサイズはピッタリだった。
「綺麗……」由美は、心の底から美しい指輪だと思った。
時間を忘れ、うっとりと眺めていたが、しばらくしてから、長谷川に呼びかけられた。
由美はすぐに我に返り指輪を外した。そして、もとあった場所に指輪を戻した。
『愛の意味をもう一度考えて』と書かれた紙の上に。
由美はその場から離れ、長谷川のもとへと戻る。
彼女は、最後まで気付かなかった。
その指輪の内側に『KAZUTO to YUMI』と彫られていたことに。