リングは彼女に


 運命の日、俺は少ない給料ながら無理をして、雑誌に紹介されていたフランス料理店に予約を入れた。

 予約の電話を入れる時、手が震えていたのを覚えている。

 きっと声も震えていただろう。


 だが、こういうことは形式から入るのが大事だ。俺は、このフランス料理店で、彼女である由美にプロポーズをしようと考えていた。


 丁度、今日で付き合い始めてから二年が経つ。十一月二十日。それは二人にとっての大事な記念日だ。


立花由美(たちばな ゆみ)。彼女とは合コンで出会って付き合いを始めた。結構ありがちな展開だが、俺はなぜか、運命というものを感じていた。

 こんなに好きになれる人、きっと神様が巡り合わせてくれたのかもしれない。長い付き合いを通じて、お互い心が通じ合っているのも感じている。

 良い夫婦になって、幸せな家庭を築くためのパートナーとして、由美をそんな目で見ていたからこそ、いつでも彼女を第一に考えての真剣な付き合いをしてきた。


 勿論、プロポーズをするのだから、婚約指輪も買ってある。


 値段も相当なもので、よくいわれる給料の三ヶ月分とまではいかないものの、今までしてきた買い物の中では一番高価なものだ。
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