リングは彼女に


 由美は腕時計の秒針と空を交互に眺めていた。その瞬間、夜空に花が咲いた。様々な色をした火花が散る。

「花火か……すごく綺麗だ。でも、なんで知ってたの?」不思議に思って聞くと、由美ははにかんだ様な笑顔を見せた。

「ふふ、和人って、パンフレットとか全然見ないでしょ。ちゃんとこれに『夏期間は毎日午後八時に花火が打ち上げられます』って書いてあるの。気が付かなかったでしょ?」


 由美が差し出したパンフレットには確かに花火の事が記載されていた。

 彼女は午後八時に一番良い場所で花火が見られるように、観覧車へと俺を誘導していたらしい。



 全然気が付かなかった。


 通りで観覧車の順番待ちが長かったわけだ。


 花火はいくつもいくつも夜空のキャンバスに鮮やかな花を描いていった。

 それは、その日、その場所でしか見られない、夜空という巨匠の名作であった。それを眺めながら、俺は由美と唇を重ねた。

 お互いの舌を絡める。

 そのまま由美を強く抱きしめた。俺は心から幸せを感じていた。



 由美は幸せだと感じてなかったのだろうか?
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