リングは彼女に
この指輪を買ったときも、こういう大事なものをどうやって選べば良いのかが分からず、店員に勧められるままに購入してしまった。
緊張していたせいもあるのかもしれない。
俺が購入したものは、店員曰く、冬の新作で、デザイン性の高い美しい指輪だった。
メビウスの輪の様に、円の一箇所が捻じれている。それとサービスで、指輪の内側に文字を入れてもらった。
こうやって指輪の入った箱を手に取ると、気が早いようだが結婚式の様子が目に浮かぶ。だが想像だけではいけない、実現しなければいけないのだ。
俺の話を聞けば、きっと由美も喜んでくれると思う。プレゼント用にラッピングしてもらった指輪は、大事にカバンの中にしまってある。
全ては今日、プロポーズをするためなのだ。とにかく、失敗は許されない。期待と不安に胸を膨らませながら、約束をした店に向かう。
ふと、交差点で立ち止まったとき、ガラス張りのショーウィンドウへ目をやると、口の両端を吊り上がらせながら、眉間に皺を寄せた曖昧な表情の男が立っていた。
――紛れも無い自分自身なのだが。
そんな自分に落ち着け、と思わず言いたくなる。
この状態を周りに悟られたくない。誰にも気付かれないように気を付けて、俺は街に溶け込んだ。そして足早に待ち合わせ場所へと向かった。