リングは彼女に
「はい、じゃあ歌って」
理那の大きな目は、しっかりと俺の目を捕らえて放さない。その目は『歌って』ではなく『歌え』と言っている。
「いや、俺は歌は……」
「ほらまた! 引きこもっちゃだめだよ。カラオケに来たら歌わないと損でしょ! 私が歌ってって言ったら歌わないと」
理那の発言には、なぜか有無を言わせない迫力がある。俺は再び過去のトラウマを思い出した。果てしなく遠いところからブーイングが聞こえる。
しぶしぶ歌本を開く、といっても俺は音楽を普段から聴いているわけではなく、最近の歌なんて歌えない。なるべく理那が知っていそうな曲を選ぼうと思った。