リングは彼女に
 それからしばらくは二人でデュエットしたり、ソロで歌ったりして楽しい時間を過ごした。

 こんなにカラオケを楽しんだのは久しぶりだ。

 でも、相変わらず俺は歌が下手みたいで、理那には「下手くそ! 音痴!」を連発されたが、全く悪気がないのが目に見えて分かっているので、全然気にならなかった。


『飾りじゃないのよ涙は』や、『笑って許して』などを歌い、瞬く間に時間は過ぎていった。


 理那は相変わらずラップを歌い続けた。とある曲を歌っている時に、インターフォンから呼び出し音が鳴り響いた。

 理那は歌い続けているので、俺が受話器を取る。

「お客様、あと五分でお時間となりますが、延長の方はよろしかったでしょうか」

「延長はしなくていいです」

「はい、かしこまりました。それでは残り五分ですので、よろしくお願いいたします」

 俺は理那に残り時間の事を伝えようと思ったのだが、理那は相変わらず歌うことをやめようとしないし、なおかつ「この曲は最後まで歌わせろ」という雰囲気がヒシヒシと感じ取れたので、敢えて話しかけるのはやめておいた。


 俺は身支度をすると共に、テーブルの上を片付け始める。

 そんなことをしているうちに、理那の歌も終わっていた。
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