リングは彼女に
席に着いて、まず食前酒を口に含む。
酒の味がよく分からない、それに、いくら飲んでも、喉が潤わない。
口の中までカラカラに乾いているようだ。
「どうしたの? いつもは、居酒屋とかばかりなのに、突然フランス料理だなんて……」由美は不思議そうな顔を見せる。
「いや、たまにはさ、由美にも美味いもの食べさせてあげたいなって思って」
「ふーん。そっか、初めてだね、こんな良い店来るの」由美が店の中を見回す。
俺も釣られるように店の中に視線を巡らせると、左前方のテーブルに目がいった。
オールバックで中年のソムリエが、なにやらワインの説明をしている。
白髪交じりの年配夫婦が、うんうんと頷きながら、ワイングラスを手に持ち、琥珀色の液体を見つめている。
由美に視線を戻した。
「俺もこういう店は初めてだよ。テーブルマナーには気をつけないといけないね」
「そうね……だけど和人、あなたナイフとフォークが逆みたいだけど」由美は呆れるように呟いた。