リングは彼女に


 しかし、俺の家は男の一人暮らし、例に漏れず汚れていて、今は足の踏み場もない状態だ。

 そんな家を、他人に見せるのはちょっと気が引ける。なので、断ろうと思ったのだが、彼女が「じゃあ、あそこでいいよ」と言い、窓の外を指差した。


 俺が窓から外を覗くと、そこにはホテルがあった。思わず、口が開いて硬直してしまう。


 理那が口を開いた。
「運転手さん。ここで止めてください」


 タクシーは静かに減速し、道路脇に止まった。
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