リングは彼女に


 晴菜は昔から俺より一歩も二歩も先を進む憎たらしい女だ。


 自転車に乗れたのも晴菜が先だったし、俺が買ってきたゲームを先にクリアしたりもした。


 なにより結婚が俺より先に決まったときは、正直いってかなりへこんだ。


 そんな妹の口癖は『兄貴、ダメねえ』なので、その一言を聞く度に怒りなど通り越して自分に呆れていた。


 まさか、子どもまで越されるとは、薄々思ってはいたけれど、実際にこうやって先を越されると、精神的ダメージが大きい。


 俺は由美に振られてしまったので、結婚から遠ざかってしまった。


 まるで、もう少しで山の頂上に到着するはずだったのに、うっかり足を踏み外して一気に転落してしまったロッククライマーの気分だ。


 どんなに焦ってもどうしようもない。重力の力で一気に下まで転落する。
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