恋迷路〜マイゴノコイゴコロ〜
「ねぇ。」
今は一番聞きたくない声が廊下に響いた。
びくっと思わず足を止めてしまう私。
ねぇ、って声かけただけなんだから、私に話しかけてるとは限らないのに。
「なんで、今日は来なかった?」
背中に視線を感じるのに、私は前を向いたまま、振り返ることができなかった。
今、顔を見てしまうと…
泣きそうだから。
どうして?
そう言って詰め寄ってしまいそうだから。
だけど…
私には智晴先輩のことを知る関係なんてどこにもない。
ただの先輩後輩。
ただ、偶然あの場所で会ったことがあるだけの顔見知り。
…ただ、それだけ。
そんな私に、先輩のことを知る権利なんてどこにもないんだから──…