A線上の二人

「……そう。って、それだけ? 何か聞かなくていいのか?」

 空気を読めない人間なのは元から。

 離れていく事に気付いていながら、何もしてこなかったのは自分で……。

「うん」

 それだけ言うと、いきなり史之は大きな溜め息をついた。

「お前って、いっつもそうだよなぁ!」

 突然、いらついた声で言われて目を丸くする。

「……え?」

「いつも受け身でさ。悲劇のヒロイン気取ってるのか何だか知らねぇけど、じっとまってますってフリでさ」

 悲劇のヒロインだとは思っていないけど。

「そのくせ、ちゃっかりしてるしさ。何が偉いのか仕事忙しいとか言ってるし」

 いや。忙しいんだけど。

 後輩も出来れば、普通は忙しくなる時期でしょう?

「たまに連絡してもつかまらないし」

 ……寂しかったのかな?

 ちょっと思わないでもなかったけれど、私はそんなにめでたい人間でもない。

 と言うか、グチグチ文句を言っている史之に別の解釈をしてみせた。

「解ったわ」

「だからお前は可愛いげが……え?」


 キョトンとした史之。


 その頬を思いきり張り飛ばした。


「可愛いげが無くて結構。それが私だわ」

 もともと男性関係に、過大な夢があった訳じゃない。

 付き合っていたって、歩み寄る事をしなければ、どんな関係だって上手くいくはずがない。

 私も悪いところはたくさんあるし、史之にだって悪いところはたくさんある。

 別れを覚悟はしていた。

 していたけれど、大学からの付き合いで、それなりに話し合いがあってもいいんじゃないかと思っていた。

 ……話し合う余地がなければ別れるしかない。

 そう思って受け入れたら……

 愚痴を言われる筋合いはないわよ。

「さようなら」

 そう言ってから伝票を持つと、支払いを済ませてから店を出た。



 さて。


 飲み直そう。



 そう思って浮かんできた顔は一人だった。

< 15 / 32 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop