A線上の二人

「ご愁傷様」

 とりあえずビールの乾杯後、事情を聞いた達哉くんの言葉はソレだった。

「本当よ。まったく」

「いや。僕は千夜に言った訳じゃない」

 そう言いながらも、どこか楽しげに枝豆を食べている達哉くん。

「どういう意味よ」

「そのまま」

「意味が解らないから聞いているの」

 唇を尖らせたら、微かな苦笑が返ってくる。

「……千夜に叩かれた彼は、そのまま店に残ったんだろう?」

「うん……。まぁ、そうね」

「別れ話して、叩かれて、取り残されて……結構恥ずかしいと思う」

 ……そうかも知れない。

「だって、別れの理由なんて聞いてもしょうがないでしょ。なら、一方的な話に怒ってみたんだけ……ど?」

 何故か、遠い目をし始めた達哉くんに首を傾げた。

「何?」

「いや……。彼とは長い付き合いだったはずなのにな……」

「駄目だったかしら」

「うん。彼がね」

「…………」

 男性の思考はよく解らない。

 パチパチ瞬きしながら焼鳥を食べて、それからビールで流し込む。

「よく解らない」

「すがって欲しかったんじゃない?」

 すがって……?

「私に?」

 眉を寄せると、達哉くんは頷いている。

「僕もそんなに経験がある訳ではないけれど、一方的に別れ話をしたら〝どうして〟と言う問いは返ってくるかな」

 ……だって、薄々は気付いていたもの。

 でも。

 今、冷静になって考えてみると、史之は私に甘えたかったのかも知れない。

 昔から、史之は甘えん坊だったから。

 仕事で上手くいかないのは、聞いている限り自業自得だと思うけれど……

 彼は〝一人〟で何かをすると言うより、〝誰か〟と何かをしたがる人だったから。


 でも……

「誰かの存在がなければ、成り立たないなんて、そんなのは甘ったれだわ」

 ビールを追加注文して、腕を組んだら、何とも言えなさそうな達哉くんと目が合った。

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