A線上の二人
「達哉くんて秘密主義だよね」
もう一本焼鳥を手に取って、それにかじりついたら、やっぱり無表情な視線が返ってきた。
「彼女がいるかどうかも知らないし、それどころか友達いるのかも怪しいし」
「たまにしか会わない」
「楽団って儲かるの?」
「下世話な話だな」
「マーケティング所属なので」
「僕の話はいいんだ」
「どうしてよ」
言ったら、達哉くんは一瞬だけ視線をそらし──……
そして、私を真っ直ぐに見つめ返してくる。
「僕に興味が出来てから聞け」
とても静かな声にドキリとした。
正直なところ、達哉くんに興味があるわけじゃない。
会話の羅列として、思いついた事を口に出しているだけ。
思えば、そんな失礼な話もない。
どこか見透かされた様な気分になって、とても恥ずかしかった。
でも、とりあえずは黙々と食べるものは食べていて……。
私、どれだけ食いしん坊なんだろうか。
頭が現実を逃避し始めた時、
「悪い」
小さな呟きに顔を上げた。
「何?」
「久しぶりだから、少し酔ったらしい」
「……え? ぇえっ!? そうなの? 達哉くん弱いの?」
「数ヶ月ぶりだ」
額に片手を当てて、すっかり俯いてしまっている達哉くん。
びっくりした。
「お、お水頼もう」
「水は吐く」
「じゃ、烏龍茶」
「許容範囲だ」
「すみませ〜ん!」
慌てて店員さんを呼んで、烏龍茶とおしぼりをお願いする。
「大丈夫? ごめんね、つき合わせて」
達哉くんって、そんなにお酒に弱かったのかな?
あまり……と言うか、二人だけで飲むのは初めてで、記憶にないんだけれど。
確か、いつだったか新年会を家でやって、日本酒飲んでたよね?
いろいろと目まぐるしく考えていたら、達哉くんは呟いた。
「ビールはだめなんだ」
あのね?
「最初から言ってちょうだいっ!」
気まずさも何もかも吹っ飛んで、思いきり叱り飛ばしていた。