A線上の二人
それからしばらくは、烏龍茶を飲み続ける達哉くん。
じっと眺めていたら、咳払いがそれを遮った。
「大丈夫だから」
「本当に?」
酔ったと言ったさっきでさえ、顔色も変えてなかったのに。
確かにいつもの無表情だけど……。
「ビールだけなんだ、弱いのは」
「そうなの?」
「ワインなら、水と変わりなく飲める」
それはそれで、どうかと思うけれど。
「そうなんだ」
「留学先では、ワインと水の値段が変わりなかったから」
「え。そうなの?」
それは知らなかった。
「それは飲み放題だね」
「買いに行くのが面倒だが……」
「それにしても、今日は饒舌だねぇ」
言った瞬間、達哉くんの言葉が途切れた。
「……千夜は明日は休みか?」
「うん。休みぃ。じゃないと飲みに行こうなんて誘わないよ」
「そうか」
烏龍茶を飲み干し、そのグラスを置いて何か考えている達哉くん。
何か考えているのは解るんだけど、何を考えているのか判らない。
「……あの?」
「カラオケに行くか」
カラオケっ!?
達哉くんの口からカラオケ!?
「カラオケ……」
「嫌いか?」
「嫌いじゃないけれど、達哉くんの口からカラオケの単語が出て来るとは思ってなかったわ」
そう言うと、一瞬だけど不思議そうな顔をされる。
「飲みに行ったらいかないか?」
「そ、ね。多いかも」
達哉くんのイメージ的に、カラオケに行って歌う姿は想像つかないんだけれど……。
でも、まぁ、達哉くんも普通の男の子だしね。
……なんて、失礼だよね〜?
そっと視線を外したら、溜め息をはかれた。
「千夜」
「ん……?」
「僕もたまには遊ぶ」
しっかりと見透かされていた。
「あは……あはは」
「聖人でもないのだから……それくらいはする」
「そ、そうだね」
「だいたい千夜は……」
「よし。じゃ、朝までカラオケだっ!」
遮って立ち上がると、達哉くんは呆然と私を見上げた。
「朝まで……?」
そして、本当に朝までカラオケを楽しんだ。