A線上の二人

 それがきっかけになったか、それともさほど遠くない位置に彼の家があったからか、私はたまに彼の家に遊びに行く様になった。

 広い洋館は子供にとっては格好の遊び場……と言うのが主な理由ではあったが、彼にとってのこの家は違ったらしい。

 学校から帰ると〝指慣らし〟と称して、彼はヴァイオリンを弾き始める。

 何の曲かは知らないけれど、聞いていると心地よい気分になってしまうのが不思議だった。

 ついウトウトと寝入ってしまって、迎えに来た母親に困った顔をされたこともある。

 だけど彼は嫌な顔もせずに、

「また、遊びに来て」

 と、言うものだから、凝りもせずに遊びに行った。

 毎日、と言う訳ではないけれど、何ヶ月かに数回。

 好き勝手におしゃべりして、気がつけば寝ている。

 そんなだから、クラスの男子達がいかに〝子供っぽい〟かと言う話を、とても大事なことの様にいいだけ力説してから、思い切って聞いてみた。

「……あたし、邪魔?」

 ヴァイオリンの弓を持っていた彼が少しだけ目を丸くする。

「どうして?」

「ヴァイオリンって、毎日お稽古なんでしょう? ママが邪魔するんじゃないわよって」

 上目使いに呟くと、彼は弓を置いて窓の方に向かった。

 広い広い部屋。

 陽光をふんだんに取り入れられる様に造られたのだろう、大きな窓が開け放たれ、心地よい風がカーテンを揺らす。

 その窓を閉めて、彼は振り返った。

「…………」

「…………」

「………あの?」

 口を聞いた瞬間、彼は人差し指を唇に持って行くから、黙りこんだ。

 とても静かだった。

 外を走る車の音も聞こえない……

 それどころか、家の中の音も聞こえない。

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