A線上の二人
5
思えば、私は本当に鈍感で、恋愛音痴だったんだな……と思う。
同年代の友達は、恋だ恋人だ……と、華やかに騒いでいる間、私は仕事に楽しみを見つけていたりして……。
「千夜、女を捨てるんじゃないわよ?」
珍しく定時で仕事も終わり、化粧室でお化粧直しをしていたら、友達の舞香にそんな事を言われた。
「え。眉太い?」
思わず鏡を見直す。
……て、普通だよね?
「……違うわよ。彼氏と別れてもうかなり経つでしょう? って、話」
ああ、そっち。
まぁ、気がつけば、史之と別れて3ヶ月経とうとしていて……
「新しい恋してる〜?」
「そんな事を言われても……出会いがないわよ」
「出会いなんて待っててもないのよ! 昔話やお伽話とは違うんだから、もっと果敢にならなきゃ」
「果敢に……って」
「残業残業ばっかりで、合コンにも参加してないでしょう」
「そりゃしてないけど」
「今晩あるから来てよ」
「来てよって……今日は確かに暇だけど」
「ならさ……っ!」
と、舞香が勢いついた所で携帯が鳴った。
着信を見て眉を寄せる私に、舞香も私の携帯を覗き込む。
「羽生達哉?」
「あ、うん。親戚」
珍しいな。
達哉くんから連絡くれるなんて、1年にあるかないかくらいじゃないかしら?
……人にはさんざん〝気が向いたら〟来る、みたいな事を言うけれど、達哉くんも相当だと思うな。
まぁ、達哉くんのお仕事って、定時があるのかないのか解らない仕事だし、タイミングが……
「出ないの?」
と、言われて、慌てて着信ボタンを押す。
「もしもし」
『千夜』
いつも通りの冷静沈着な淡々声。
「はいはい」
『忙しいか?』
「ううん。仕事上がったところよ」
『じゃあ、うちに来てくれないか』
……はい?
「どうして?」
『コンクールで入賞したから』
「……………」
どうしてそんなに冷静なんだっ!?