A線上の二人
迎えに来てくれるなら時間もあるし、どこか念入りに化粧をして、何となくロッカーにしまいっぱなしになっていた香水も使ってみる。
うん。
やっぱりさ、お祝いの席にはきちんとした服装じゃないと……親戚としてはねぇ。
あ。
車……は、置いていこうかな。
達哉くんが迎えに来てくれるんだから、置いていった方がいいよね。
髪はオーケー、化粧もバッチリ。
スーツだけれどスカーフをまいたから、それなりにカジュアルになった感じで……。
「…………」
って、見栄張ってどうするんだろ。
音楽関係の人なんて私には無関係だし、どう見えたって構わないのに。
まぁ、うん。
親戚として、親戚としては……達哉くんに恥をかかせられないし。
そんな事を思いながら従業員入口を出ると、見覚えのある長身を見つけた。
達哉くんって、こう見ると美男子の部類かも知れない。
あまり意識した事はなかったけれど、結構目立つ方なんじゃないだろうか?
「お待たせ」
片手を上げながら近づくと、達哉くんは黙って頷いてポケットに手を入れた。
「そんなに待ってない」
「そう?」
……何だか、やりとりがくすぐったいな。
「車は?」
「あ。うん。会社の駐車場に置いていく」
「大丈夫か?」
「うん」
いいながら歩きだし、達哉くんの車に乗り込んだ。
達哉くんの車は広くていい。
足が伸ばせるくらいに広くて、たまに乗る時は寛いでいるんだけれど……。
何だか落ち着かない。
「何を買ってたの?」
「ワイン」
「ワイン?」
「明日、休みか?」
「うん。休みだけれど」
「そうか……」
何だろう?
どこか緊張した様子に首を傾げる。
「何?」
「飲もうと思うから」
「ああ……」
……それきり車内に沈黙が落ちた。
もともと達哉くんは無口な方だから、そんなに会話が弾むという事も珍しいけれど……。
考えながら、夕闇に包まれて行く町並みを見ているうちに、達哉くんの家に着いていた。