A線上の二人
「本当に静かな家ね」
「そうだな」
「今はともかく、小さな頃は寂しかったんじゃないの?」
キッチンに着いて、ワインのボトルを置きながら、達哉くんは私の手を離した。
「そうでもない」
それだけを言って、棚からグラスを二つ取り出す。
……いや、それだけで終わらせた?
じっとキッチンを動き回る達哉くんを眺めていたら、急に肩を竦めて振り返えられた。
「小学上がるまでは親と一緒にあちこち飛んで歩いていたし、中学入るまではやかましい子守がいたから」
「やかましい子守……」
「千夜は会ったことがないよ。うちの親がいなくなってから辞めてもらったから」
そうなんだ……
「それからは、たまに賑やかで小さな子が遊びに来ていたし」
「ふぅん?」
賑やかで、小さな……
「……って、ちょっと、それ私?」
「他に誰がいる」
「いないかも知れないけど、もっと他に言いようがないわけ?」
「けたたましいとか?」
「もっと酷い! 可愛い親戚とか!」
「自分で可愛いとか言うんだ?」
無表情で見返されて、少し恥ずかしくなった。
まぁ、普通、自分で自分を表現するのに〝可愛い〟とは言わないね。
自分でも〝可愛い〟なんて思ってないのに、自分で言うのは恥ずかしくなる。
「今のなしっ! 聞き流して……」
言いかけたら、顎に指がかかって上げられた。
達哉くんと視線が合わさって、それから……
「千夜は、可愛いと言うより綺麗」
「…………」
「色に例えるなら、透明感のある蒼か、多分紅だろう」
「………ゃ」
目茶苦茶褒められていたりする?
とってもとっても、褒められている?
「きっと……」
きっと?
「黙っていられれば」
「どうせそうですよ!」
一歩下がって腕を組んだ。
曲がりなりにも〝もの静か〟とは言われた事はないもんね。
思慮深くなりなさい、なんてたまには言われたりね!
ぶつぶつ文句を言っていたら、
「怒るな。僕はそんな君は嫌いじゃない」
そう言われて、唇を尖らせる。