A線上の二人
「そういう子供っぽいところが〝ちーちゃん〟だな」
小さな呟きを聞き逃さずに、達哉くんを睨みつけた。
「そんなこと言うのはたっちゃんくらいデス〜」
「そう?」
「子供っぽいなんて、子供の頃から言われた事はないんデス〜」
「そう?」
「そ……」
そうなんだけれど……
考えてみれば、今の言動は子供っぽいかも知れない。
「何か手伝う。運ぶんでしょう?」
気がつけば、手際よく料理を温め直している達哉くんに、首を傾げて聞いてみた。
「そうだな。ここで食べるのも気が進まないし……」
「案外、映画みたいでカッコイイけどね」
白いタイル貼りのキッチンは、どこかおしゃれな外国映画に出て来るような造りをしている。
暖かみ……と言うよりは、機能的過ぎて、女性より男性が立つ方が似合いそうだけれど。
「……立ったまま?」
「……疲れるよね」
呟いたら、小さな笑いが返ってきたような気がするけれど、
「どこで食べたい?」
「うーん。そうね……」
いつもと違う気分になりたい……と言う希望から、練習室に料理を運び込んで食べる事になった。
「まずはおめでとう」
ワインの入ったグラスを合わせて、お互いに視線を合わせる。
「ありがとう」
「急な話で、お祝いも何も用意してないけれど」
「別にいいよ。来てくれただけで」
グラスのワインを綺麗にくるくるまわし、それを一口含む。
それを真似しようとして失敗した。
……まぁ、飲めればいいと思う。
「でも、そんな訳にいかないから、何がいい?」
「何が……何でもいいのかい?」
「いいよ。出来る範囲でなら。まさか私にストラディヴァリを買ってとは言わないでしょう?」
「今使っているアマーティのコンディションがいいから、しばらくはいらない」
いや、そういう問題でもないんだけどね?
だいたい、ヴァイオリンなんて高額だし、普通にOLしてる私がプレゼント出来るか出来ないか……なんて、解るでしょうに。