A線上の二人

 そんな私の内心には気付かずに、達哉くんはカマンベールチーズのカナッペを食べながら、何故か遠くを眺めている。

「そうだな……」

「うん?」

「考えてもいいかな?」

「うん。考えておいて」

 私が勝手に選んだプレゼントでもいいけれど……

 サプライズをするには今更だし、やっぱり本人の欲しいものじゃなければね。

「それにしても、いつのまにコンクールとか出てたの?」

「結構前から」

「全然知らなかった。教えてくれてもいいのに」

「落ちたら、格好悪いだろう」

 淡々とそんな事を言われても……。

 ある意味どうかと思うのだけど?

「でも、凄いよね〜。私はどんなに凄いか解らないけれど、何かに入賞するのって、大変なことよね」

 学校での校内コンクールとは違う。

 何か、とんでもなく世界が広い気がする。

「……演奏するかい?」

「え……。それって一人で飲んで食べていろ……と?」

「ああ……じゃ、BGMをかけよう」

 そう言いながら、達哉くんはオーディオの方に向かって行った。

 まぁ、達哉くんの演奏を聞きながらワインと食事……なんて、とっても贅沢なんだけれど。

 せっかくだから一緒に食べたい。

「て言うかさ、これ全部達哉くんが作ったのよね?」

 カナッペが4種類でしょう?

 サーモンマリネに、冷製パスタが2種類。

 ローストビーフに、ラザニアに……。

 これは多分、ジャガ芋のスープ。

 面倒な……いや、手のかかりそうな料理ばかりじゃない?

「昨日の夜から仕込みしてたから、たいした事はないよ」

「………私に断られたらどうするつもりだったのよ」

「隣りにおすそ分け」

「おすそ分け……」

 言いかけて、疑問が沸き上がってきた。

「ねぇ。コンクールの発表っていつだったの?」

「昨日」

「ならなんで、昨日連絡して来ないのよ!」

「昨日は木曜日だし、誘っても来てくれない事は解ってたから」

 ……だからって、来るかどうかも判らないのに仕込みに入るのは如何なものだろう。

 相変わらず、達哉くんは独特だ。

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